数学の勉強というと,問題集の問題を解いたり,正解例を見て写したりすることだと思っていないでしょうか. もちろんそれも勉強の一部ではありますが,大学での数学の学び方は,テキストとして選んだ本を「徹底的に読み込む」ことが一番の基本です. ここで言う「読む」というのは,字面を追っかけることではありません. すべての文章や数式に対して,それがどういう意味で書かれているのかを深く深く考え抜き,奥の奥まで理解することです. そして,読んできたテキストの内容について発表し,さらに理解を深める場とするのが,セミナーです. 本を読み,セミナーで発表し,また本を読む.この繰り返しが,大学での数学の勉強のスタイルなのです.
「テキストを読んできてその内容を発表する」というのは,皆さんが思っているよりずっと大変なことです. 「~であることを示せば十分である」とか「~が明らかに成り立つ」とか「~であると仮定してよい」とか, さらっと書いてあることはすべて,どうしてそう言えるのかを徹底的に考えなくてはいけないからです. セミナーの発表で,テキストに書いてある通り「~であることを示せば十分です」と言ったら, 先生から「どうして十分なんですか?」という質問がまず間違いなく飛んできます. そこですぐ答えられないようでは,テキストを読んだことにはならないのです. 「どうしてかは分からないけど,本にはそう書いてありました」というのでは全くダメです.
発表の内容について,どんな質問が来てもすぐ答えられるようにしておくためには, 膨大な時間をかけて準備しておかなければいけません. ある1ページを読むのに1週間の空いた時間をすべて費やすなどということも, 数学の本を読むときには決して珍しいことではないのです. 少なくとも,セミナーの前日や当日にちょこちょこっとテキストに目を通すなどというのは, 数学の勉強に全くなっていないということを認識してほしいと思います.
時間をかけてテキストを読み込み,一生懸命セミナーの準備をしたとき, 初めて数学を理解することができます. さらにいえば,何か物事を「理解する」とはどういうことかを理解することができるのです.
なお,どうやって数学の勉強をすべきかをもっと知りたい人には,
「新・数学の学び方」(小平邦彦編・岩波書店,2015年)をお勧めします.